私と人間
重たい空から冷たい水が降ってくる。
「おかーさん、おかーさん、寒いよー、どこにいるの?」
段ボール箱の中からニャーという声だけが響き、雨音に掻き消されていく。
なにかくる。
人間だ。
哀しそうにこっちを見てる。
「捨て猫?…君もお母さんがいないのか。」
わたしは人間の持っている物で雨が当たらなくなった体をブルブルと振った。
「きみだぁれ?」
人間にニャーと聞いた。
「よっと」
急にぐらっと箱が動いた。
人間が持ち上げているようだ。
「まってな、もう少しで家だから。」
「どこいくの?おかあさんとこ?」
わたしは立とうとした。
「うわぁ」
箱が揺れてバランスを崩して仰向けに倒れてしまった。
「あはは、なにしてんだ。静かにしてな。」
人間は私の前ではじめて笑った。
「こら、じっとしてろ。」
明るいと所に連れてこられた私はふさふさしたものに包まれてもみくちゃにされた。
「匡人?帰ってきたの?」
もう一人人間が来た。
「あ、羅也姉。」
「…どうしたのそのねこ?」
「こいつ捨て猫。寒そうだったから拾ってきたの。」
「うちマンションなのに…。」
困った顔をしている。
しばらくしてガチャンという音がした。
「ただいまぁ。」
わたしは興味津々にその音の方向に走った。
「あっこらぁっ」
男の子が体を掴んだ。
目の前には人間の大人が立っていた。
「あぁ、バレちゃった…。お、おかえり。」
男の子は苦笑いをした。
大人はぽかんとしていた。
「ねぇ〜飼っちゃだめ?」
なにか話し合っている。
しばらく話を聞いていた。
「…そうだ、室内で飼えないなら、外で飼やいい。」
と大人の人間がいった。
「あそこなら誰も来ないだろ」
「え〜逃げたらどーすんだよぉ」
「それは2人で考えろ!これが飼う条件だ!!」
「やったー!!」
なにかうれしそうだ。
人間の言葉はよくわからない。
「それは…」
「これで秘密基地作るんだー」
私の入っていた入れ物を指さす。
「それでか?」
大人はあきれている。
男の子は鋭いもので入れ物を切りはじめた。
「ボクぁ地球に優しい人だからね。資源はムダにしないの。」
「……そうですか」
私は女の子の腕の中で作業を見ていた。
「で、この子の名前どうするの?」
「あ」
女の子の言葉で作業が止まった。
「そうだな、うーん。ねこだから…ねこ、ねこ……ねこ!」
男の子が目をカッと見開いて私を指さした。
「ねねこ!ねねこにしよう!!」
「ね」とか「こ」とか叫んでいる。
「うわ安直…」
「いいの!ねねこでいいの!なーいい名前だよな、ねねこ。」
私を見て何か言ったので
「何ー?」
と返した。
「ほらーねねこもいいって言ってる」
「何言ってんの?いやだーって言ったのよ」
言い合いをしはじめた。
「できた!」
男の子は入れ物の中にわたしを入れて喜んだ。
しかし他の2人の眉間にしわが寄る。
「これ逃げませんか。」
「ダサい。」
「なっ不評?!」
男の子は言われたことに驚いたようだ。
「逃げる要素がないじゃん。風通し、雨除け、ご飯付き…」
「自分が入ってみろヨ。」
大人の人間はげんなりした。
「んじゃ、置いてくる!」
男の子は私ごと入れ物を持ち上げ、立ち上がる。
「いやっ本当にそれでいいの?!」
大人の人間の言葉も聞かず外へ飛び出た。
「よし!OK!」
地面に置かれた箱の中から私は顔を出した。
「うんうん、居心地いいだろー」
男の子は自慢げにこっちを見ている。
そのとき、
「マーサちゃんっ」
「!うぉ夕華」
後ろから飛び出してきたのは女の子だった。
「そのボロ箱の中に何入ってんの?!」
「ボロ箱?!」
「わっわっねこじゃんっ」
「だれにも言わないでよぉ」
「ど−ったのこの子?」
「いや、ちょっいやがってるって」
女の子に脇腹をつかまれて私はくすぐったさにもがいていた。
「へ〜拾ったんだ」
男の子が話している間に私を降ろして、女の子が言った。
「うん、ここで飼うんだ」
「え?ボロ箱で?」
「うっさい!」
「…でもさぁ」
「ん?」
「ホントに飼うの?」
私の首を撫でながら女の子は真剣そうな口調で言う。
男の子はその言葉を聞いてきょとんとした。
「え?本当にって…?」
「ホントにこんなとこで飼うのかって言ってんの」
「…だって家じゃ飼えないんだよ」
男の子は少し戸惑いながら言った。
「だからってこんなとこで飼ったらこの子かわいそうじゃん」
「……」
「夏は暑いし、冬は寒いんだよ。大雨降ったらこんなの水浸しになっちゃうし」
女の子の続けて言う。
「うちのお母さんが言ってた。生き物を飼うって言うのはお母さんになることだって。」
「…!」
男の子はその言葉を聞いて頭をうつむけた。
それと同時に女の子は「あっ」と声を漏らす。
そのとき、男の子はそのまま後ろを向くと猛ダッシュで駆けていった。
「!!えっマサちゃっ…どうすんのこの子ぉ」
遠ざかる男の子と私を見て困った顔をした。
「…あたしのバカ、お母さんは言っちゃマズかった」
その顔を眺めていることしか私にはできなかった。